導入:静かに変わった「受け取り」の常識
「ピンポーン、宅配便です!」
この日常の光景が、今、静かに、そして劇的に変化しています。近年、運送業界では「置き配」が標準的な配達方法へと移行しようとしています。これは単なるサービスの一環ではなく、業界が抱える深刻な課題、すなわち「運賃の上昇」「人員不足」「配達数の激増」という三重苦から生まれた必然の選択と言えるでしょう。
なぜ「置き配」が原則とならざるを得なかったのか。その背景を理解するために、まずは置き配のメリットとデメリットを整理し、その上で運送業界の厳しい現状と絡めて解説していきます。
置き配のメリット・デメリット
一見合理的と考えられる置き配ですが、「置き配」は、受取人・配送業者の双方に大きなメリットをもたらす一方で、無視できないリスクもはらんでいます。
⭕️ メリット(利便性・効率性)
❌ デメリット(リスク・課題)
置き配原則化の背景:運送業界の「三重苦」
置き配が単なるオプションではなく、「原則」とならざるを得ないのは、運送業界が現在直面している構造的な問題が限界に達しているからです。
1. 人員減と「2024年問題」
トラックドライバーの高齢化や労働環境の厳しさから、業界全体で深刻な人手不足が続いています。さらに、2024年4月から施行された「働き方改革」関連法により、ドライバーの時間外労働時間が制限されました。
これにより、一人のドライバーが運べる荷物の量が減少(=配送能力の低下)し、このままでは物流が滞るという「2024年問題」が顕在化しました。
2. EC市場の拡大による配達数の「激増」
インターネット通販(EC)市場の拡大に伴い、個人宅向けの小口配送が爆発的に増加しました。増え続ける荷物に対し、人員が追いつかない現状では、配送負荷は増大する一方です。
3. 運賃上昇を吸収するための「効率化」
人件費や燃料費の高騰、そして上記の人員不足を補うためのコストは、最終的に運賃の上昇として消費者やEC事業者に跳ね返ってきます。
この状況で、運送会社が最も非効率と感じているのが「再配達」です。再配達率は全国平均で約10%前後(国土交通省調査より)を推移しており、年間で約9万人のドライバーが再配達業務に費やしているとも試算されています。
この非効率の極みである再配達を徹底的に削減し、限られた人員と時間でより多くの荷物を届けるには、「不在でも完了する置き配を標準化する」ことが、業界の存続にとって不可避な手段と考えれたことです。
まとめこんにちは、公認会計士太郎 さん
置き配が原則化された背景には、運送業界の崩壊を防ぎ、私たち消費者へのサービスを維持するための切実な事情があります。
これは、「対面での受け取り」という当たり前のサービスが、運送コストとドライバーの労働環境を犠牲にして成り立っていた時代の終焉を意味します。
消費者である私たちも、この新しい常識を受け入れ、「置き配バッグの活用」「盗難防止のための工夫」「置き場所の指定」など、受け取り側としての責任と工夫が求められる時代になりました。
置き配をめぐるトラブルやリスクはゼロにはなりませんが、それを上回る配送効率化のメリットが、運送業界と私たちの生活を支えるための生命線となっているのです。
運送業界の未来を守るため、そして快適なEC利用を続けるために、私たちは今、「置き配」という新しい受け取り方と真剣に向き合う必要があります。
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