近年、日本の不動産市場で「外国人の不動産保有」というキーワードが注目を集めています。都心部のタワーマンションから地方の広大な土地まで、様々な不動産が外国人によって購入されているというニュースを耳にする機会も増えました。
一体、日本の不動産市場において、外国人はどれくらいの割合を占めているのでしょうか?また、その現状は日本の社会や経済にどのような影響を与えているのでしょうか?今回は、公的なデータや専門家の見解を基に、このテーマを掘り下げていきます。
1. そもそも、外国人による不動産保有は可能なの?
まず大前提として、日本には外国人による不動産保有を規制する法律はほとんどありません。
これは、明治時代に制定された「外国人土地法」が戦後、形骸化したことによります。
外国人土地法
第一条 帝国臣民又ハ帝国法人ニ対シ土地ニ関スル権利ノ享有ニ付禁止ヲ為シ又ハ条件若ハ制限ヲ附スル国ニ属スル外国人又ハ外国法人ニ対シテハ勅令ヲ以テ帝国ニ於ケル土地ニ関スル権利ノ享有ニ付同一若ハ類似ノ禁止ヲ為シ又ハ同一若ハ類似ノ条件若ハ制限ヲ附スルコトヲ得
第二条 帝国法人又ハ外国法人ニシテ社員、株主若ハ業務ヲ執行スル役員ノ半数以上又ハ資本ノ半額以上若ハ議決権ノ過半数カ前条ノ外国人又ハ外国法人ニ属スルモノニ対シテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ其ノ外国人又ハ外国法人ト同一ノ国ニ属スルモノト看做シ前条ノ規定ヲ適用ス
② 前項ノ資本ノ額又ハ議決権ノ数ノ計算ハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
第三条 外国ノ一部ニシテ土地ニ関シ特別ノ立法権ヲ有スルモノハ本法ノ適用ニ付テハ之ヲ国ト看做ス
第四条 国防上必要ナル地区ニ於テハ勅令ヲ以テ外国人又ハ外国法人ノ土地ニ関スル権利ノ取得ニ付禁止ヲ為シ又ハ条件若ハ制限ヲ附スルコトヲ得
② 前項ノ地区ハ勅令ヲ以テ之ヲ指定ス
第五条 帝国法人ニシテ社員、株主若ハ業務ヲ執行スル役員ノ半数以上又ハ資本ノ半額以上若ハ議決権ノ過半数カ外国人又ハ外国法人ニ属スルモノニ対シテハ前条ノ規定ヲ適用ス
② 前項ノ資本ノ額又ハ議決権ノ数ノ計算ニ付テハ第二条第二項ノ規定ヲ準用ス
第六条 土地ニ関スル権利ヲ有スル者カ本法ニ依リ其ノ権利ヲ享有スルコトヲ得サルニ至リタル場合ニ於テハ一年内ニ之ヲ譲渡スコトヲ要ス
② 前項ノ規定ニ依ル権利ノ譲渡ナカリシ場合ニ於テ其ノ権利ノ処分ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
③ 前二項ノ規定ハ土地ニ関スル権利ヲ有スル者ノ相続人其ノ他ノ包括承継人カ本法ニ依リ其ノ権利ヲ取得スルコトヲ得サル場合ニ之ヲ準用ス但シ第一項ニ規定スル期間ハ之ヲ三年トス
④ 第一項及前項ニ規定スル期間ハ通シテ三年ヲ超ユルコトヲ得ス
この法律は、外国人が土地を保有する際に、政府の許可を必要とするものでしたが、現在では適用されるケースが限定的で、事実上、誰でも日本の土地や建物を自由に購入できる状態になっています。
そのため、外国人(個人、法人問わず)は、日本人と同様に日本の不動産を所有することが可能です。これが、日本の不動産が海外投資家にとって魅力的な理由の一つとなっています。
2. 外国人の不動産保有割合、具体的な数字は?
「外国人による不動産保有の割合」について、公的な統計データは限定的です。不動産登記簿に国籍を記載する義務がないため、全体の正確な割合を把握するのは困難なのが現状です。
しかし、いくつかの調査やデータから、その傾向を読み取ることができます。
① 土地白書(国土交通省)
国土交通省が公表している「土地白書」では、外国人による国土の取得状況について、一部のデータが示されています。
ただし、これらのデータはあくまで一部であり、特に都市部のマンションや一般住宅の購入状況は含まれていないため、実態をすべて反映しているわけではありません。
■ 全体のインバウンド投資額
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令和6年の海外投資家による国内不動産投資額は 約9,397億円。
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前年(5,758億円)に比べて 約63%増加。
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国内不動産投資額に占める割合は 17.1% で、前年(17.0%)とほぼ同水準
■ 国別の増減傾向(令和4年データ)
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米国:全体の34%を占める最大の投資国。ただし、投資額は前年同期比で ▲21%減少。
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香港:投資額が前年同期比で +324% と大幅増。
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英国:前年同期比で +251% の増加。
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フランス:前年同期比で +241% の増加。
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その他、シンガポール(+51%)、韓国(+22%)などアジア勢でも伸びが見られる
3. なぜ日本の不動産は外国人に人気なのか?
日本の不動産が外国人から注目される背景には、いくつかの要因があります。
① 資産価値の安定性 政治的・経済的に安定している日本は、海外の投資家にとって、比較的リスクの低い投資先と見なされています。特に、自国の経済や政治に不安を感じる富裕層にとって、日本の不動産は魅力的な資産保全の手段となります。
② 低金利と円安 日本は長らく低金利政策を維持しており、不動産ローンを組む上でのコストが低いことがメリットです。また、近年の急速な円安は、外貨を持っている外国人にとって、日本の不動産を非常に安価に購入できる機会となっています。
③ インバウンド需要の増加 観光客の増加に伴い、ホテルや民泊施設としての需要が高まっています。特に、観光地や都心部の不動産は、インバウンド需要を見越した投資対象として人気です。
④ 観光目的の別荘や移住 北海道のニセコや長野の白馬などのリゾート地では、スキーリゾート目的の外国人による別荘購入が盛んです。また、日本の生活環境の良さから、長期滞在や移住を目的とした購入も増えています。
4. 外国人不動産保有のメリットとデメリット
外国人の不動産保有は、日本にどのような影響を与えているのでしょうか。
メリット
- 不動産市場の活性化: 海外からの資金流入は、不動産市場を活気づけ、価格を安定させる効果があります。特に、地方の過疎化したエリアや、空き家が増えている地域の不動産が購入されることは、地域経済の活性化につながります。
- 新たな税収の確保: 不動産取得税や固定資産税など、外国人による不動産保有は国や地方自治体の税収増に貢献します。
デメリット
- 居住用不動産価格の高騰: 特に都市部の人気エリアでは、外国人の購入が価格を押し上げ、日本の若者や一般層が手を出せなくなる可能性があります。
- 土地所有の懸念: 地方の水源地や国境付近の土地が外国資本によって買収されることに対し、安全保障上の懸念が指摘されています。これを受けて、一部では外国人による土地取得を規制する法律の制定を求める声も上がっています。
5. 今後どうなる?外国人不動産保有の展望
現状、外国人による不動産保有は、日本の不動産市場全体に大きな影響を与えるほどではありませんが、特定の地域や物件においてはすでに価格形成に影響を与え始めています。
今後も、日本の安定性や円安といった要因が続く限り、外国人による不動産購入は増加する可能性があります。その一方で、価格高騰や安全保障上の懸念から、何らかの規制が検討される可能性も否定できません。
日本の不動産市場は、グローバルな資金の流れにますます連動する時代に入っています。私たちは、この変化の波を理解し、そのメリットとデメリットの両方を冷静に見極める必要があるでしょう。
最終的には、日本国民が安心して暮らせるようなものとするためにも、外国人による不動産保有については、公示価格等で国が買い戻せる法案も考えるべきではと考えています。
なお、政府(国土交通省)はやっと重い腰を上げて、外国人による大規模な土地購入の実態把握に乗り出した。山林なら1万平方メートル以上で、取得者の国籍を自治体に届け出るよう義務づけた。情報を国に集約するシステムを2026年度に整備する。水源や森林の保全などに向けて不適切な利用を防ぐ。ただし、その範囲はまだまだ限定的であると考えられる。
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