【ファクトチェック】「外国人の生活保護」は本当に多い? 数字とデータリンクで見る日本のセーフティネットの実態
「生活保護世帯の3分の1が外国人だ」「日本の生活保護費が外国人に流れすぎている」――。
インターネットやSNSでこのような言説を見聞きしたことがあるかもしれません。生活保護制度は私たちの税金で運営されているため、その使途について関心が集まるのは当然のことです。
しかし、これらの主張はしばしば、公的なデータに基づかない誤った数字や情報によって拡散されています。
本記事では、厚生労働省の公的統計データに基づき、日本の生活保護制度の全体像と、その中で外国籍の受給者が占める割合を正確なパーセンテージと統計データへのリンクを添えて解説します。冷静な事実認識から、この重要な社会保障制度の実態を理解していきましょう。
1.日本の生活保護制度の総額と全体像
外国人受給者の割合を議論する前に、まず日本の生活保護制度がどれほどの規模なのかを確認します。
(1) 生活保護費の支給総額
生活保護費は、生活扶助、住宅扶助、医療扶助など8種類の扶助から成り立っています。この保護費の総額(国費ベース)は、近年おおむね3.5兆円から3.8兆円程度で推移しています。
- 日本の生活保護費 総額(年間):約3.5兆円~3.8兆円
このうち、約半分は医療扶助に充てられています。これは、受給世帯の過半数を占める高齢者世帯や傷病・障害者世帯など、医療を必要とする世帯が多いためです。
【データ出典】
- 厚生労働省 生活保護制度の現状について(生活保護費負担金(事業費ベース)実績額の推移など):厚生労働省のウェブサイト(PDF資料)(※データは年度により更新されます)
- 内閣府 生活保護の現状(令和2年度実績 約3.5兆円など):内閣府のウェブサイト(PDF資料)
(2) 受給世帯の全体数
全生活保護受給世帯数も、以下の通り推移しています。
- 全生活保護世帯数:約165万世帯(月平均、例:2023年度)
これらの世帯の97%以上は日本国籍の世帯です。高齢化に伴い、高齢者世帯が全体の過半数を占めています。
2.外国人の生活保護受給の法的根拠
外国人が生活保護を受給できるのは、以下の特別な経緯に基づいています。
(1) 法律の「準用」による保護
生活保護法は「国民」を対象としていますが、終戦直後の混乱や国際的な人道上の観点から、1954年の旧厚生省社会局長通知に基づき、以下の特定の在留資格を持つ外国人に対して、生活保護法を準用して保護が行われています。
- 特別永住者(主に在日韓国・朝鮮人の方々)
- 永住者
- 日本人の配偶者等
- 定住者
支給される保護費は、日本人と同様に世帯の人数や地域に応じて算定され、外国籍だからといって特別な優遇措置があるわけではありません。
3.外国人受給世帯の比較とパーセンテージ(最重要データ)
それでは、最も焦点となる「外国人受給世帯が全体に占める割合」を公的データから確認します。
(1) 外国籍世帯数の実態
厚生労働省の「被保護者調査」によると、最新の外国籍世帯の受給実態は以下の通りです。
【データ出典】
- 厚生労働省 被保護者調査(年次調査、基礎調査)
- nippon.comの記事で引用されている、2023年度のデータ(全世帯数、外国籍世帯数)の元となる統計です。 nippon.comの記事(厚労省調査引用)
(2) 全体に対するパーセンテージ
上記の世帯数に基づき、外国籍世帯が全生活保護世帯に占める割合を算出します。
【結論】外国籍世帯の割合はわずか約2.9%
この数字は、一部で主張される「生活保護世帯の3分の1(約33%)が外国人」という情報が、根拠のない誤りであることを明確に示しています。
また、支給額ベースで見ても、外国籍世帯への支給額は、総額3.5兆円のうち2~3%程度に留まると推測されます。
このデータからわかる事実は、日本の生活保護制度は、その97%以上が、日本国籍を持つ人々の最低生活を支えるために機能している、ということです。
4.議論の焦点を構造的な課題へ
「外国人の生活保護」をめぐる議論が過熱しがちですが、冷静に数字を見ると、日本の生活保護制度の課題は、外国人受給者数の増減ではなく、日本の社会構造そのものに深く根ざしていることがわかります。
私たちは、約97%を占める日本国民の受給者がなぜ増加しているのか、特に高齢化が進む中で、年金や医療、雇用といった社会保障全体を持続可能にする方法にこそ、真剣に議論の焦点を当てるべきでしょう。
正確なデータに基づき、感情論に流されることなく、本当に困っているすべての人々への支援のあり方を冷静に議論していく姿勢が、これからの日本には求められています。
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